エリック・ロメールの映画が好きな人が好き
エスプリに満ちた会話と光に満ちた日常風景
ロメールの紡ぐ作品は私達の生きている世界がいかに美しく、ユーモアに満ちているのか訴えかける。
真夏にエアコンの聞いた教室で、
クラスメートのほとんどは眠りに落ちていた。
暗闇のなかで輝くフランスの日常風景に、
延々と続く登場人物の会話
そして静かに響く皆の寝息。
これが私とエリック・ロメールの出会い。
- ≪友達の恋人≫ ≪L'ami de mon amie≫ 1989年
友達の恋人という題名の通り、
登場人物は友人同士・恋人同士のサークルの中で付き合ったり、別れたり、復縁したりを繰り返す。
ただ本作品において、運命の相手や燃えるような恋愛はテーマではない。
本当に彼が好きなのか、彼を好きになってもいいのか
自分の気持ちがよくわからない
仕事も頑張りたいけど
フラフラ遊んでいる女友達に誘われるも気乗りしない。
大人になり切れない大人たちを見ていると
いつの間にか「大人」と呼ばれる歳になった自覚のない自分と重なる
子供の頃思い描いていた「大人」に比べて今の自分は思ったより大人ではない
いつになったら大人になれるのか、、。
主人公が変わらない日常を繰り返す。
さざ波のように穏やかな毎日も
過ぎ去ってみれば愛おしい。
いつの日か今よりも成長した自分が
こんな日々を思い出して慈しんでいることだろう
- ≪海辺のポーリーヌ≫ ≪Pauline à la plage≫ 1982
海辺の別荘で繰り広げられる男女の恋愛劇と
15歳のポーリーヌのみずみずしい初恋
南仏のビーチでバカンスを楽しむ人々の恋愛観や人生観に共感するのかしないのか。
むしろ私は早く大人になりたいポーリーヌの愛らしさに目が惹かれる。
時として大人よりも子供の方が、成熟していることもある。
しかし子供さながら自分の本能に従い生きる大人の姿もまた憎めない。
- ≪木と市長と文化会館≫ ≪L'arbre,le maire et la médiathèque≫
本作はいつものロメールとは毛色が変わり、政治コメディー
パリ郊外の田舎町に文化施設を建てようとする市長と、それに反対する市民たちの声
各々自己主張をする市民たちの様子はさながらフランス革命の血が流れていることを認めざるを得ない。
なかでも
娘の友人と会話する市長の姿は印象的だ。
子供とは思えないほど立派な口振りのゾエには市長も思わず腕を組む。
そして七つの偶然が重なり、物語は展開していく。
皆さんは
「もしあの時違う決断をしていたら、、」
と思う経験がおありでしょうか。
しかし私はこう考える。
「あの時」の「あの偶然」が今の自分を作っているのだ。
人生において一たりとも無駄な時間はない。
これはは「時間を無駄にしてはいけない」という意味ではありません。
はたから見たらどんなに生産性のない無駄な時間であったとしても、
それは今のあなたを構成する対越な一部なのだ。
「偶然」と「偶然」が積み重なって出来たこの人生を振り返り、
そしてこれから先どのような「偶然」を選択していくのか考えよう。
大人になりきれない大人のジレンマ、子供の純粋さ・鋭さ
光溢れる映像で我々の日常を切り取り
もっと今を愛しなさいと教えてくれる。
ハラハラするドラマや燃え上がるような恋愛模様などない
ただこんな普通で情けない自分を受け止めてくれる人は
エリック・ロメールが好きなはず。